2016-09-19から1日間の記事一覧

82 煙の中

俊夫が泣き出している。良介、どうしてよいかわからない。あちこちで焼け落ちる家々。二人、道路の真ん中に座わり込んでしまう。突然二人の脇を抱える大男。ベンだ。二人を起こすと大声で、 ベン「Follow me !」 とどなる。胸に吊った箱からは仔犬が顔を出し…

81 共同壕の外

ここもすごい煙。泰助と徹が目を凝らしている。煙の切れ目に遠く良介と俊夫が見える。俊夫が良介にすがりついている。 泰助「徹ちゃん、あそこや」 と駆け出そうとするが目の前に家が焼け落ちてくる。

80 兄弟の家

外で村人達の騒ぐ声。空襲じゃーとか、燃えよるぜーとか言って走っていく。浪子、勝手口から飛び出して行く。前の道を軍馬に二人乗りした軍曹と伍長が一目散に駆けていく。 ぐつぐつ煮立っているおかま。

79 路地

ベン、筵をはらって起き上がると上空にむかって手を振って叫ぶ。 ベン「Stop it ! Fly away !」

78 大通り

良介と俊夫、路地のところまで駆けてくる。三十メートルほど遅れて追ってくる組長。ヒューと爆弾の落ちる音。 組長「いかん、今日は本物や。おまえら早う壕へ……」 そこでドカンと焼夷弾が落ちた音。火柱が上がる。続いてドカン。組長、行手を火と煙に阻まれ…

77 共同壕の中

徹が人ごみをかきわけて出て行こうとする。 婦人二「どこへ行くんぞな。まだ警報は止んどらんのぞな」 徹「いとこがおらんのや。一緒に居【お】ったいとこが居らんのや」 婦人一「組長さんが見回って他【ほか】の壕へ入れとるはずじゃ、今日あたり、ちぃと爆…

76 大通り

良介と俊夫が見回りをしている隣組の組長にまとわりついていく。 良介「なあ、ちょっと来とくれよ。敵兵をとりこにしとんじゃ、なあ、そこの路地じゃ、なあ」 組長「このくそ忙がしいときに何を言いよる。早よう壕へ入らんか。おまいらの兵隊ごっこにつき合…

75 共同壕の中

婦人一「ちぃと見ん顔ぎりじゃが、どの辺のうちの子じゃ?」 正雄「大谷から来たんです」 婦人二「子供ぎりでか?」 一同、うなずく。 婦人二「まあ、どうじゃろか!こんな小まい子らが大谷から来た言うとるが、なあ小父【おい】さん」 と言われた老人、耳が…

74 町――大通り

夕やけが赤く沈みかけている。 突然鳴りわたる空襲警報。 急いで防空壕へ入る人々。 泰助たちは荷車を引いてうろうろしている。 婦人一「あんたら、何しよんぞな。早よう、早よう」 と共同壕の方へ呼んでいる。 遠くから聞えてくる飛行機の爆音。 泰助と徹が…

73 (F・I)兄弟の家 土間

かまどに火をおこす浪子、じわっと炭に火がともる。

72 長屋の外

すっかりチョコレートの味をしめた二郎、荷車の筵【むしろ】をちょいととってみる。すやすや眠っているベン。二郎、筵をそっと戻します。雲が透き、夕焼けで赤くなっている空。もうあたりはかなり暗くなってきている。(F・O)

71 良介の家

なおも話し続ける孝。 孝「な、こういうのを敵【かたき】というんよ。な、それで、父ちゃんとられたとこまでは一緒や。でもな……そこに居るアメリカ兵がじかに殺【や】ったんとは違うやろ。それどこか、いやいや戦争にとられとんや。な、わかる?」 徹「わか…

70 長屋の外

すっかりチョコレートを舐めきった二郎。口のまわりと手が茶色。水を飲もうと井戸の水を汲む。

69 良介の家

まだ黙々と握り飯を食っている俊夫。その横で急に大きな声で、 良介「そりゃ、敵【かたき】やないか!父ちゃんの敵【かたき】や」 徹「(懸命に言い聞かせるように)そらぁ、違うで。そらなぁ……なぁ、孝ちゃん」 孝「うん。あのね、敵【かたき】いうのはやね…

68 村――四つ辻

ばったり出会う伍長一行と軍曹。 伍長「(びっくりしてあわてて敬礼をして)どうされました、軍曹殿。供出米を運んでいかれたのでは……」 軍曹「いや……車が故障じゃ。伍長こそどうした。アメリカ兵生き残りの噂の真偽はつかめたか」 伍長「はあ、それが、……」…

67 良介の家

良介とその弟、俊夫が夢中でごろじいの作った握り飯を食っている。それをながめている四人。 徹「なんや、あてがはずれたなぁ。おおかた一【ひと】月も白い飯、食うとらんのじゃと」 孝「臨時収入があって助かったね」 徹「あんまり急いで食うなよ、つっかえ…

66 町――ある長屋の裏口

荷車が置かれている。初めのように供出物を運んでいるように見える。筵【むしろ】でふたをされた木の箱の中からくんくんと仔犬の鳴き声が聞こえる。近くの井戸端に腰かけて見張っている二郎。チョコレートをとり出して(ぐにゃぐにゃになっているので仕方な…

65 神社の門、すなわち一本道のところ

例の軍馬が瓶【かめ】にたまった水を飲んでいる。三人、とり囲んで 兵隊三「こりゃ、うちの隊のです。確か伍長殿が引いていかれた……」 兵隊四「そうじゃ、しかしなんでこんなとこに……あっ」 と彼方を見やって口をぽかんとあける。 軍曹も兵隊三も同じくぽか…

63 (F・I)一本道

しとしと降り続く雨の中をトラックが行く。運転しているのはベン。助手席に泰助と孝が乗っている。残りは、荷車ごと荷台の中。仔犬も箱に入れられてのっているが、車の振動のせいかおとなしい。徹、兵隊のリュックを開けて弁当箱をとり出す。そーっと開くと…

63 (F・I)一本道

しとしと降り続く雨の中をトラックが行く。運転しているのはベン。助手席に泰助と孝が乗っている。残りは、荷車ごと荷台の中。仔犬も箱に入れられて のっているが、車の振動のせいかおとなしい。徹、兵隊のリュックを開けて弁当箱をとり出す。そーっと開くと…