脚本3・9
後書き S61・8・30 執筆完了 H18・11・31 Web掲載 終戦間近の昭和二十年、九州でのお話。山ん中に墜ちた米軍偵察機。一人、生き延びたアメリカ兵が最初に出会ったのは、十才と十二才の子供兄弟です。学校の先生に鬼畜米英と教っていた彼らは、その目で何も…
ジープ到着。まず仔犬のベンが飛び出していく。制する大人達を振り切って子供達が飛び出して行く。 ジープから降りる大男、ベン。肩にサンタクロースのように袋をかついでいる。再会。回りで不思議そうに見ている大人達、米兵達をよそに喜び、はねまわる子供…
女、子供が心配そうに集っている。下の様子をうかがっている浪子。
集っているのは大人の男だけ。そこへ泰助らが走ってくる。良介、俊夫も入れて合わせて七人。ごろじいもやってくる。 村役「こらこら、女子供は何されるか分からんけぃ、山におらんか」 泰助「平気、平気。なんともないなあ、ベン」 といって抱いている仔犬に…
進駐軍のジープが五台ほど土煙を上げて行く。
重ねて、実写のフィルムで原爆から終戦、そして進駐軍上陸まで見せます。
ベン、子供達に向って大声で、 ベン「Thank you !」 子供達、行け、行けと手を振りながら、 正雄、泰助「オーケー、オーケー!」 と叫ぶ。動き始める機体。 追いかけて走る子供達。そして兵隊達。 中隊長「撃つな!飛行機を出せ!急げ!」 と叫ぶ。兵隊の一…
トラックが急ハンドルを切って入ってくる。急ブレーキで中尉の前にとまると中隊長、飛び降りる。 中隊長「どうなっとる、中尉」 中尉「はあ、それが、九番機が勝手に動いて……」 中隊長「勝手にじゃない!敵兵じゃ、敵兵に乗っ取られたぞ!」
エンジン音を開いて、中尉と整備兵が出てくる。櫓の歩哨も急いで降りてくる。倉庫から出てくる九番機、子供達と仔犬があとを追う。朝日がさしてくる。左の翼には拙【つたな】いけれどもそれと分かる星条旗。右の翼にはスーパーマンのSの字。そして尾翼の39…
軍曹が中隊長に報告している。 中隊長「敵兵と子供がぐるじゃと!」 軍曹「はい、間違いありません。トラックの乗り捨ててあったところから見て、町に来とるのも確実であります」 中隊長あたりを見回す。すでに雲隠れしている良介。 中隊長「あのガキもそし…
操縦席のベン右手を上げて振り下ろす。台の上に上がっている徹と孝がプロペラにしがみついて飛び降りる。一発で始動するエンジン。泰助、尾翼の上でまだペンキを持っている。
敵兵生け捕り隊の一行が先を急ぐ。 組長「でもどうやってその暴れる奴をつかまえたんじゃ?」 良介「ワナや、ワナ。落とし穴に落としたんや」 組長「ほう……そらお手柄やなあ」 中隊長「ところで坊主、お前どうやって川を渡ってきたんや?」 そのとき川上のほ…
ベッドの上に中尉と整備兵、並んで腰かけている。 整備兵「少しでもおやすみにならんと……」 中尉「学生のときから徹夜には慣れとんだ。徹夜したほうがかえって頭が冴えるのよ。それで、その片腕、打ち抜かれた飛曹はどうなった」 整備兵「はあ、それから出血…
どっからみつけてきたのか泰助、ペンキの缶とハケを持っている。翼の上に上がると、操縦席に窮屈そうに座って、機器を調べているベンのところへ行って例のコミックをとってくる。開いたコミックを片手に翼に何か描きはじめる泰助。
倉庫のあたりから、バケツ、板切れ、藁【わら】などいろんなものを孝、二郎、正雄、俊夫が運んできて翼の上に上がった徹に渡す。徹、手当りしだいに座席にぶち込む。徹、翼から飛びおりて、正雄に 徹「これで飛ぶのにえろう手間がかかるで……あれ泰ちゃんは?…
見張りの兵隊が椅子の上で眠りこけている。山の方が白らんできている。
九番機を見上げている一同。 泰助「これやな、孝【たか】ちゃん」 孝「(胴体の下のタンクをたたいて)これが油やろ。間違いない」 正雄「よっしゃ、飛行機のことはベンにまかしとこ。わしらはなあ……」 とみんなを集めて指示をする。
川上めざして走るトラック。あとから伍長の乗った軍馬が駆ける。助手席の軍曹が運転している兵隊四と大声で話している。 軍曹「どれぐらい行けば橋があるんか?」 兵隊四「あと十キロぐらいであります」 軍曹「壊れてもかまんからぶっ飛ばせ!」 タイヤがく…
じっと様子をうかがっている子供達。 あちこちから兵隊が集ってきて、良介と組長を先頭に走り出す。それを見送って小屋のかげから走り出る一行。門の外燈の下を通って奥へ消える。
良介「……あの騒ぎで逃げられたけど、河原に隠れとんを見張っとんや、早よう早よう」 組長と中隊長、うなずき合って行こうとする。 良介「二人か?おいさんら?二人じゃ危ないよう。暴れ出したら手がつけられん」 中隊長「おい、そこの、おまえ!」 と近くの…
組長が顔を上げたところを良介見てとって、 良介「あっ組長さんや!」 とささやくと俊夫に食いかけのチョコレートを渡して飛び出ていく。止めようとする徹を孝が制して、 孝「なんぞ考えがあるんや、見よう」 良介が組長に何か熱心に、身ぶりを交えて話して…
ここだけぽっかり外燈がついている。中隊長に頭を下げている組長。 組長「御馳走になりました」 中隊長「いやいや……これから浜の方へいかれるんか?」
正雄とベン、そして良介と俊夫が休んでいる。二郎の膝で仔犬が寝ている。そこへ徹と泰助と孝が身を低くして戻ってくる。 泰助「だめや、兄ちゃん、見張りが回りを取り囲んどる」 良介「おかしいなあ、普段は誰もおらんのに」 孝「何【なん】ぞ気付いたんかも…
時計が三つ打つ。小さな明かりでまた縫い物をしている浪子。ふっと顔を上げて仏壇を見ると、針を置いて立ち上がる。仏壇の中でキラキラ光っている銀紙の包みをとり上げて、なんだろうと見ています。 時計が三つ打つ。小さな明かりでまた縫い物をしている浪子…
櫓の上に見張りが一人。そこから見下ろすと、飛行場をとりまいて百メートルおきぐらいに歩哨が立っている。ちゃんと立っているもの、座り込んでいるもの、中には眠りこけているものもいる。
こちらは勢いよく登っていくトラック。土手を登りきったところで急ブレーキ。荷台の中の二人、思い切りひっくり返る。ぽかんと口を開けている座席の二人。
キキィーと派手な音をたてて貨物列車が急ブレーキをかける。歩くぐらいのスピードに落ちた車輌に子供達、草むらから飛び出て、いろんな方法でしがみつく。ベンは片手で俊夫を抱え、逆の手一本で棒を握りしめる。 機関車の窓から機関士と車夫が顔を出している…
乗り捨ててあるトラック。近くの井戸で兵隊達が水を飲んだり顔を洗ったりしている。兵隊二、トラックの方へ小走りで向っていきながら 兵隊二「早よせい。ぶっ飛ばすぞ」 と運転席に飛び乗って手早くエンジンをかける。バックして道に入って三人を乗せると激…
孝がレールに耳をあてている。 孝「早よう、急げ、急げ」 俊夫を除いたみんなで燃えそうなものを集めている。ベンがライターと紙きれを使って火をつける。 孝「よっしゃ、みんなこっちや」 と鉄橋とは逆の方へ駆け出す。一同、百メートルほど走るとレールの…
尾翼にOB-109と掻かれている機体にゆっくり近付いていく中尉。なるべく音をたてないように翼に登り、風防をそーっと開け、上半身を突っ込む。そこで懐中電燈をつけ、計器の下の配線の一つを鋏で切ろうとする。その時、倉庫の奥で戸の開く音。中尉、慌てて鋏…