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脚本3・9

82 煙の中

俊夫が泣き出している。良介、どうしてよいかわからない。あちこちで焼け落ちる家々。二人、道路の真ん中に座わり込んでしまう。突然二人の脇を抱える大男。ベンだ。二人を起こすと大声で、 ベン「Follow me !」 とどなる。胸に吊った箱からは仔犬が顔を出し…

81 共同壕の外

ここもすごい煙。泰助と徹が目を凝らしている。煙の切れ目に遠く良介と俊夫が見える。俊夫が良介にすがりついている。 泰助「徹ちゃん、あそこや」 と駆け出そうとするが目の前に家が焼け落ちてくる。

80 兄弟の家

外で村人達の騒ぐ声。空襲じゃーとか、燃えよるぜーとか言って走っていく。浪子、勝手口から飛び出して行く。前の道を軍馬に二人乗りした軍曹と伍長が一目散に駆けていく。 ぐつぐつ煮立っているおかま。

79 路地

ベン、筵をはらって起き上がると上空にむかって手を振って叫ぶ。 ベン「Stop it ! Fly away !」

78 大通り

良介と俊夫、路地のところまで駆けてくる。三十メートルほど遅れて追ってくる組長。ヒューと爆弾の落ちる音。 組長「いかん、今日は本物や。おまえら早う壕へ……」 そこでドカンと焼夷弾が落ちた音。火柱が上がる。続いてドカン。組長、行手を火と煙に阻まれ…

77 共同壕の中

徹が人ごみをかきわけて出て行こうとする。 婦人二「どこへ行くんぞな。まだ警報は止んどらんのぞな」 徹「いとこがおらんのや。一緒に居【お】ったいとこが居らんのや」 婦人一「組長さんが見回って他【ほか】の壕へ入れとるはずじゃ、今日あたり、ちぃと爆…

76 大通り

良介と俊夫が見回りをしている隣組の組長にまとわりついていく。 良介「なあ、ちょっと来とくれよ。敵兵をとりこにしとんじゃ、なあ、そこの路地じゃ、なあ」 組長「このくそ忙がしいときに何を言いよる。早よう壕へ入らんか。おまいらの兵隊ごっこにつき合…

75 共同壕の中

婦人一「ちぃと見ん顔ぎりじゃが、どの辺のうちの子じゃ?」 正雄「大谷から来たんです」 婦人二「子供ぎりでか?」 一同、うなずく。 婦人二「まあ、どうじゃろか!こんな小まい子らが大谷から来た言うとるが、なあ小父【おい】さん」 と言われた老人、耳が…

74 町――大通り

夕やけが赤く沈みかけている。 突然鳴りわたる空襲警報。 急いで防空壕へ入る人々。 泰助たちは荷車を引いてうろうろしている。 婦人一「あんたら、何しよんぞな。早よう、早よう」 と共同壕の方へ呼んでいる。 遠くから聞えてくる飛行機の爆音。 泰助と徹が…

73 (F・I)兄弟の家 土間

かまどに火をおこす浪子、じわっと炭に火がともる。

72 長屋の外

すっかりチョコレートの味をしめた二郎、荷車の筵【むしろ】をちょいととってみる。すやすや眠っているベン。二郎、筵をそっと戻します。雲が透き、夕焼けで赤くなっている空。もうあたりはかなり暗くなってきている。(F・O)

71 良介の家

なおも話し続ける孝。 孝「な、こういうのを敵【かたき】というんよ。な、それで、父ちゃんとられたとこまでは一緒や。でもな……そこに居るアメリカ兵がじかに殺【や】ったんとは違うやろ。それどこか、いやいや戦争にとられとんや。な、わかる?」 徹「わか…

70 長屋の外

すっかりチョコレートを舐めきった二郎。口のまわりと手が茶色。水を飲もうと井戸の水を汲む。

69 良介の家

まだ黙々と握り飯を食っている俊夫。その横で急に大きな声で、 良介「そりゃ、敵【かたき】やないか!父ちゃんの敵【かたき】や」 徹「(懸命に言い聞かせるように)そらぁ、違うで。そらなぁ……なぁ、孝ちゃん」 孝「うん。あのね、敵【かたき】いうのはやね…

68 村――四つ辻

ばったり出会う伍長一行と軍曹。 伍長「(びっくりしてあわてて敬礼をして)どうされました、軍曹殿。供出米を運んでいかれたのでは……」 軍曹「いや……車が故障じゃ。伍長こそどうした。アメリカ兵生き残りの噂の真偽はつかめたか」 伍長「はあ、それが、……」…

67 良介の家

良介とその弟、俊夫が夢中でごろじいの作った握り飯を食っている。それをながめている四人。 徹「なんや、あてがはずれたなぁ。おおかた一【ひと】月も白い飯、食うとらんのじゃと」 孝「臨時収入があって助かったね」 徹「あんまり急いで食うなよ、つっかえ…

66 町――ある長屋の裏口

荷車が置かれている。初めのように供出物を運んでいるように見える。筵【むしろ】でふたをされた木の箱の中からくんくんと仔犬の鳴き声が聞こえる。近くの井戸端に腰かけて見張っている二郎。チョコレートをとり出して(ぐにゃぐにゃになっているので仕方な…

65 神社の門、すなわち一本道のところ

例の軍馬が瓶【かめ】にたまった水を飲んでいる。三人、とり囲んで 兵隊三「こりゃ、うちの隊のです。確か伍長殿が引いていかれた……」 兵隊四「そうじゃ、しかしなんでこんなとこに……あっ」 と彼方を見やって口をぽかんとあける。 軍曹も兵隊三も同じくぽか…

63 (F・I)一本道

しとしと降り続く雨の中をトラックが行く。運転しているのはベン。助手席に泰助と孝が乗っている。残りは、荷車ごと荷台の中。仔犬も箱に入れられてのっているが、車の振動のせいかおとなしい。徹、兵隊のリュックを開けて弁当箱をとり出す。そーっと開くと…

63 (F・I)一本道

しとしと降り続く雨の中をトラックが行く。運転しているのはベン。助手席に泰助と孝が乗っている。残りは、荷車ごと荷台の中。仔犬も箱に入れられて のっているが、車の振動のせいかおとなしい。徹、兵隊のリュックを開けて弁当箱をとり出す。そーっと開くと…

62 一本道、やぶのところ

かなり雨足が弱まっている。泰助と徹のあとを兵隊二人と傘をさした軍曹が続く。やぶの中の孝に合図する泰助。兵隊四が急に喋り出すので泰助、どきん。 兵隊四「ついとらんなぁ」 兵隊三「いや、全く。しかし、中尉殿には、この雨は天の恵みかもしれんぞ。こ…

61 一本道

トラックがぬかるみから出ている。兵隊は荷やタイヤを確かめている。 軍曹「世話かけたな。もちと景気がよけりゃ小遣いでもやるんやが、……まあこれで我慢せいよ」 といも二つを泰助に渡す。そのいもをお手玉しながら、 泰助「この雨じゃあ、また落ちるよ。ど…

60 一本道

二人、トラックから十メートルぐらいのところまでくると急にぶらぶら歩き出す。轍【わだち】を泥水が川のように流れている。二人、様子をうかがいながら近づく。エンジンのうなる音。タイヤがすべる音。泥水が飛び散る。 徹「手伝おか、兵隊さん」 とエンジ…

59 やぶの切れ目

泰助と徹と孝が様子を見ている。 遠くに見えるトラック。どうやらぬかるみに入って立ち往生しているらしい。二人で後追ししている。 三人頭を付き合わせてしばらく相談。孝が肩をはずませて二人に策を授けている。 泰助「じゃ、あと頼む」 と徹と二人で一本…

58 村のはずれ

どしゃぶり。一行はやぶを抜け、見通しのよい一本道に出る。先頭をきっていた徹が急に梶棒を持ち上げブレーキをかける。全員おもわずつんのめる。 遠くにトラック(幌付き)が止まっている。どうみても軍のもの。一行、一言も言わずに方向転換。やぶの中へ荷…

57 柳の木のところ

すごい降りに、繋がれていた軍馬が驚いて跳ね回る。繋いであった道しるべの杭が折れて、軍馬、一度思い切りいななくと、雨を突いて駆け出す。 無残に折られ、用を為さなくなった道しるべの下半分にたたきつける雨。

56 畑の中の道

低く低く飛んで、ときどき畑に口ばしをつけて虫をとる燕。それを見ながら、 徹の祖母「こりゃ、すごい降りが来るで。兵隊さん、あんたらも早うどこぞへ……」 先程の兵隊三人が徹の祖母をつかまえて質問している。 伍長「まだ雲はすいとるぞ。晩まで保【も】つ…

55 ごろじいの家の前

泰助が一番に飛び出してきてあたりを見回す。一層雲が多くなってきている。 泰助「(納屋に向って)ベーン」 弁当を抱えた徹、箱をかかえた正雄、孝、二郎、と出てきて、最後にごろじいが出てきたときに、ベンも仔犬を抱いて納屋から出てくる。仔犬を泰助に…

54 (D・I)飛行場の司令室

壁にはられている地図。九州を中心に、沖縄、フィリピンと続く。やはり線がたくさん引かれている。 部屋の真ん中の椅子に座って地図をぼんやり見ているのがここでは一番偉い中隊長。人の足音がして整備兵がやってくる。 整備兵「(敬礼して)報告します。九…

53 (F・I)ごろじいの家

少し曇ってきているせいで少し暗い板間の片隅に二郎がぺったり座わり込んでいる。徹が駆け込んでくる。 徹「(息をはぁはぁつきながら)みんなは?」 と二郎に聞く。二郎、放心したまま、 二郎「まだたい」 とつぶやく。 徹「なんや、また、腰、抜かしとんの…

52 山の頂

二郎、箱を置いてはぁはぁやっている。はっと振り返るとそこには伍長が立っている。二郎、じりじり後ずさり。後がなくなったとき、伍長の後ろにしのび寄ったベンの一撃。伍長、がっくり膝を折って倒れる。二郎、腰が抜けて、その場に座り込む。(F・O)

51 谷川

ここまで逃げてきた泰助。そのまま飛び込む。岸まできて地団駄を踏んでいる兵隊。

50 茂みの中

逃げる徹、追う兵隊。山を走り慣れた徹の速いこと。

49 谷間の道

道の両側に腰の高さぐらいの草がうっそうと茂っている。並んで歩く兵隊。一人が箱を抱えている。蝉が一匹、木から木へジジー、と啼いて飛び移る。それに兵隊二人、気をとられる。とたんに地面に置かれた蔓【つる】がピンと張る。もんどりうって倒れる兵隊。…

48 くぼ地

正雄とベンを取り巻いている四人。正雄が仔犬を抱いている。 正雄「こいつが飛び出していくもんやから二人で追っかけたんや。危のうかった」 徹と二郎と孝、ベンをまじまじと見ている。ベンが笑いかけたのに応えて、徹、右手を挙げ、孝、微笑み、二郎、無理…

47 茂みの中

目だけ出している泰助、 泰助「兄ちゃん、どしたんやろ」 そのとき後ろから木の枝が飛んできて、四人の前に落ちる。いっせいに振り返る四人。かなり後ろの方に正雄とベンが伏せっている。

46 ほら穴の前

日本兵が一人、立って辺りを見回しているところへ、もう一人ほら穴から例の箱を抱えて出てくる。二人して辺りの様子を探っている。

45 茂みの中

下の方にほら穴が見える。入り口が開いたままになっている。横倒しになっている木のかげから四人が頭だけ出してのぞいている。木漏れ日が揺れる。 咄嗟に三人、二郎を残して頭を下げる。 二郎、遅れて、慌てて、頭を下げる。

44 山道の終わり

馬が一頭、木の枝に繋がれている。回りを歩き回っている四人。徹が馬の腹を手慣れた手つきで触って、 徹「ええ馬やなぁ。こんなええ馬、ここら辺じゃ、ちょっとお目にかかれんぜ。(よじ登る感じでまたがる)こりゃ、軍馬かな」 泰助「軍馬やて、そりゃ事じ…

43 ほら穴

寝ころがっているベンと正雄の上を舐めずりまわって遊んでいる仔犬。正雄はベンの地図を拡げてみている。 仔犬、突然、殺気立つと入り口の下を擦り抜けて出て行く。慌てて追いかける正雄、ベン。

42 山道(馬がかよえるぐらい太い道)

かんかん照り。三人が、少し遅れて二郎が、首に手拭いのようなちいさい布を巻きつけて歩いていく。 徹「なぁ、泰ちゃん。ほんとにあの板菓子、まだあるん?」 泰助「そらもう、箱に一杯ぐらいあるで」 徹「そうか、よしよし」 泰助「でも、もろうたら、三、…

40 四つ辻

泰助が歩いてくる。角【かど】で走ってきた二郎とはち合わせ。二郎は泰助の後ろに隠れる。(犬の啼き声、近づく) 二郎「(喘【あえ】ぎながら)泰ちゃん……助けて」 大きな真っ黒な犬が走ってきたのを泰助、なんなくあやす。 泰助「どうして逃げるの?」 二…

39 孝【たかし】の家

寝ころがって本を読んでいる孝。読んでいるのは、林不忘「丹下左膳」机の上には四、五十冊は本が積んである。そこへ姿をみせる泰助。 泰助「孝【たか】ちゃん、ちょっといいものあげるよ」 (WIPE)

38 畑

ばあさんが大根を抜いている。それを集めて歩く徹。そこへ泰助が、平均台を渡るように両手を広げて、あぜを通ってくる。 泰助「徹ちゃーん。ちょっと」 徹、かごを置くと、巧みに畝【うね】を飛び超えてくる。 徹「なんだい、泰ちゃん」 泰助「いい[もん]…

37 徹【てつ】の家

土間の半分を占めている厩【うまや】で徹の母親が馬にまぐさをやっている。そこへ勝手口から泰助が顔をのぞかす。 泰助「おばさん、おはよう。徹ちゃんいる?」 徹の母「ああ、おはよう。徹ならばあちゃんと畑だよ」 泰助「ありがとう」

36 (F・I)兄弟の家、玄関

勢いよく飛び出してくる二人。 道まで出て、 泰助「昼過ぎまでに、話つける」 正雄「急ぐこたぁないぞ。大人に聞かれんな」 泰助「大丈夫、大丈夫」 と言って駆けていく。少しの間見送った正雄が逆向きに歩き出そうとすると、家の中から、 浪子「正【まさ】…

35 兄弟の家

真夜中。並んだふとんでねている二人の目が明いている。じっと柱時計を見ている泰助。振子が左へ行くたびに白く光る。正雄は腕まくらをして真っ直ぐ上を見ている。 正雄「帰りたいやろな」 泰助「え」 と正雄の方へ寝返り。 正雄「ひとりぼっちだ」 泰助「ん…

34 木の根元

手製の十字架が立っている。その下に置かれた認識票。泰助と正雄が正座して手を合わせている。ベン、少し離れて座り、二人をじっと見つめている。

33 墜落現場

三人でリュックをかかえて遠出をしてきている。あたり一面黒こげ。ベン、操縦席らしきものを見つけ、焼け焦げた布をさぐって認識票を見つける。ぎゅっと握りしめる大きな手。正雄と泰助、少し離れて見ている。

32 (F・I)兄弟の家

朝ごはんの前。一番のお茶を仏壇に供えて浪子、手をあわせます。浪子が立つと今度は泰助と正雄、並んで座って手をあわせる。