10 (F・I)森の中
日はとっくに暮れている。落下傘の布や枝を燃やしてその傍らに二人で膝を抱えて座っている。兵隊は少し離れた木にもたれて座って焚き火の炎をじっと見つめている。
正雄「どうすらい。もう帰らんとまた夕飯【めし】ぬきや」
泰助「ほっとくわけにはいかんよ」
正雄「じゃけど、大人連れてくりゃ、掴えてしまうやろ」
考え込む二人。泰助は銀紙をいじっている。
ふと顔を上げてあたりに目を凝らす泰助。立ち上がって闇の中へ駆けていく。泰助の去った方向と兵隊のほうを不安げにかわるがわる見る正雄。犬の遠吠えが聞こえてくる。焚き火の枝がくずれ、炎が小さくなる。急いで枝を投げ込むと立ち上がる正雄。がさっ、と人の気配がして泰助が駆け戻ってくる。
泰助「やっぱりや、兄ちゃん、ここ、基地からそう遠ない。兵隊さんが立てれば連れていけらい」
正雄「基地いうて……ああ、あそこか」
泰助「そうや、あそこで今晩寝さしとこ。あした朝一番で来たらええ」
と兵隊の前に行き、指さして、
泰助「あっちに、キチがある……」
と言いかけてやめる。指さした指で頭を書く。
泰助「ひょっとせんでもアメリカ語しか分からんのやなぁ、兄ちゃん」
正雄「まかせ、まかせ」
と言ってパントマイムを始める。膝に手をあてて立ち上がる仕種。びっこを引きながら歩く仕種。大きく手をまわし穴を示し、それに入る仕種。
泰助「そや、うまいもんや、そんで……」
手枕で寝る仕種をして、ぐうぐういびきを掻くまねをする。兵隊、微笑えんで見ていたがついに声を上げて笑い出し、頷き、立ち上がろうとしてよろめく。二人、駆けよって両側から支え、泰助が杖にしろと仕種で示して網を渡す。よろよろ歩き始める兵隊を改めて見上げる二人。
正雄「ひゃッー、でっかいもんや」
泰助「おれんの倍や」
正雄「帰ったらごろじいに話しにいこ。ほかの大人はいかん」
泰助「そぉや、ごろじいならええこと教えてくれる」
闇に消える三人。(F・O)