13 ほら穴の中

直径三メートルほどで子供なら五人は十分入れる。光とりの縦穴があり、結構明るい。わらが敷いてあり、その上に兵隊が寝ている。

正雄「ここ、作っとってよかったなぁ。しんどい[め]、した甲斐があったな」

と言いながら鞄から蒸した芋と麦混じりの握り飯の包みをとり出して、台のように置かれている切り株の上に開ける。

泰助「こんなもん食べるんかな。うんしょ」

と兵隊の背中に手を回して起こす。兵隊が手を出さず台の上をじっと見ているのを見て、泰助、握り飯をとり、むしゃむしゃ食べてみせながら一つ兵隊に渡す。兵隊が食べ始めたのを見て正雄も急いで食べ始める。兵隊、何か言いかけるが、とりやめて、まったくうまいよ、という表情をしてみせる。

正雄「でも、この兵隊さん、おとなしいの」

泰助「そらそぉや。喋ったって通じんの分かり切っとるからやな。それにぜんぜん知らんとこに一人ぼっちや。まぁ、兄ちゃんが町ではぐれて泣きべそ掻いとったみたいなもんや」

正雄「あほう、そんな、ずうっと前のこと言うなや。泰やて町で一人になりゃ、まよわい」

泰助「そんでも泣きやせんよ」

正雄「いや、泣くわい」

泰助「いや、絶対泣きやせん。兵隊さんも泣いとらん」

正雄「そりゃ、兵隊さんは強いからや。兵隊さんが泣きよったら戦争にならんわい」

兵隊、水筒の水を飲んでいたが、二人の話が一息ついたのを見て、

兵隊「Thank you.」

二人、顔を見合わせる。

正雄「三、九、て言わんかったか?」

泰助「そゃ、三、九、やった。何や分からんけどアメリカ語、一つ覚えたで。三、九、や」

と兵隊のほうを見る。

兵隊「三、九、」

泰助「やった、やった……ついでに兵隊さんの名前、分からんかなぁ。アメリカ人やて名前あるんやろ」

正雄「それなら兄ちゃんにまかせ。けどアメリカの名前はたいがい長ぁぃぞ。よぉ聞いとけ」

と膝立ちになって自分を指しながら兵隊に向って、

正雄「マサオ……マサオ」

泰助を指しながら、

正雄「タイスケ……タイスケ」

そして兵隊を指さす。兵隊、自分で自分を指しながら正雄を見て、意を得たりと頷くと、

兵隊「My name is Ben...... Ben」

泰助「何やものすごい長いなぁ」

正雄「あほう、分からんやっちゃ。ベンや、ベン。そう言うたろうが。前のは能書きや。おおかた、ワタシノナマエハコウデッセ。ぐらいや。そやろ、ベン」

と兵隊に言いかけると、兵隊、大きく頷いて、正雄と泰助を順に指して、

ベン「マサオ、タイスケ」

泰助「物分かりがええ、もう覚えた。よし、ベンやな。なんや下肥【しもごえ】みたいで汚ないけど、まあ短こうてええ。ベンやな。ベン、ベン……」

と繰り返しながら外へ出て行く。笑って顔を見合わせる正雄とベン。

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