17 森の中、昨日の焚き火のあと
泰助、木の枝や、草を抱えてきて、焚き火の跡を覆っていく。だいたい覆い尽したとき、はっと人の気配に気付く。少し登ったところに兵隊が一人立っている。降りてきながら、
兵隊「何しとる?、坊主」
泰助「(兵隊が近づくのを待って)虫取りの用意や、おじさん、(草を盛ったところを足で踏みながら)こうしとくと、下にいろんな虫が集まるんや」
兵隊、うさんくさそうに草に手を伸ばす。
兵隊「虫て、なんじゃ」
泰助「ミミズがいっぱい。バッタもな。たまにヘビが入る」
兵隊、いやな顔をして手を引っ込める。
泰助「おじさん、ヘビきらいかい。ヘビの刺し身て、うまいんやで」
兵隊、ますます気味悪そうな顔付きになる。
兵隊「あぁ坊主、ここらで怪しい奴、見かけなんだか」
泰助「なんや、怪しい奴て、どろぼうか」
兵隊「敵兵じゃ。昨日、高射砲で打ち落とした敵機がこの先の山に落ちたから、生き残りがここらをうろついとるかもしれんでの」
泰助「へえ。そんで見つけたらどうするの」
兵隊「抵抗すれば撃ち殺すか、生け捕りにできたらしめ上げていろいろ聞くんじゃ。まあ、生きとりゃ、そう安々とは掴まるまい。坊主も気をつけィよ。早う、家へ帰れ」
泰助「大丈夫、大丈夫。熊とやて仲良しにすることにしとんや」
と言いながら、兵隊の足元に銀紙が落ちているのを見つけ、手でふたをするように飛びつく。
兵隊「なんじゃ?」
泰助「おしいなぁ。トカゲや、大きい奴やったのに逃がしてしもた。蒸し焼きにしたら旨【うま】いのになぁ」
兵隊、つき合いきれんという表情で、
兵隊「早う帰れ」
と言いながら背を向けて山の奥の方へ入って行く。銀紙を握りしめて、じっと見送る泰助。(WIPE)