18 ほら穴の中
正雄がチョコレートを食べている。そこへ泰助が戻ってくる。
泰助「あ、兄ちゃんだけ、狡【こす】いぞ」
正雄「心配せんでも、泰の分もあるわい。……ベンな、ものすごたくさん持っとるんや。この箱の中な、何やへんな機械と本でな、その隙間にこれがぎっしり詰まっとんや。三度の飯より好きなんやろ」
泰助「これを飯のかわりにしとるんかな?」
正雄「そらぁ違うやろ。こんな菓子ぎり食べよってこんなに大きになれるんなら苦労せんわい」
と水を飲む。
泰助「あ、そや。兄ちゃん、村の人と兵隊がいっぱい、ベンのこと探しに来たよ。ここはちょっとじゃ見つからんやろけど、……見つけたら撃ち殺すて」
正雄「そうか。それやな。ごろじい、変なこと言いよったけど……これからどうしょう。なんかええ策ないか」
三人の真ん中にトカゲが一匹、天井からぽたっと落ちて走り去る。ベン、びっくりしておろおろする。泰助、トカゲを追いかけながら
泰助「なんや、ベンもトカゲきらいか。兵隊さんて、皆、肝小さいんやなぁ」
と藁【わら】の下を探る。
泰助「そや、兄ちゃん、トカゲて食えるんか」
正雄「なんや、急に、そりゃ食えるかもしれんけど、まず、まずうて腹こわすやろ」
泰助「ふうん、やっぱしそうか」
ほら穴の隅に小さくなっているベン。顔色が悪い。(F・O)