19 (F・I)兄弟の家
外は強い雨。正雄と泰助が土間に筵【むしろ】を敷いて、その上に座り込んで草鞋【わらじ】を編んでいる。そこへ勝手仕事をしている母親が漬け物樽を抱えてやってくる。
浪子「どうしたん。そんなに大【おお】きに編んで」
兄弟、ちらっと目で合図。
泰助「これはなぁ……」
浪子「父ちゃんも足、大きかったけど、そんなに[ばか]みたいに大きくなかった。」
正雄「(身を乗り出して)どれくらい、大きかったん?」
浪子「そうやなぁ、十三文ぐらいやったかな、もう忘れてしもたけど」
泰助が手をいっぱいに広げて草鞋の大きさを計っている。
泰助「十三文……十三文か……」
そのとき勝手口のところから声。
ごろじい「こんばんは、皆、おるかな」
泰助「あっ、ごろじいや」
と勝手口へ飛んで行く。
ごろじい「ちょっと戸を開けてくれんかのぉ、手がふさがって……」
ガラガラと戸を開ける泰助。ごろじいの右手には傘、左手にびしょ濡れの仔犬が抱かれている。泰助に仔犬を渡しながら、
ごろじい「こいつを洗おてやってくれんか」
浪子「どうしたん、じい。こんなよう降る晩に」
ごろじい「いや、あんまり降るんで、堰【せき】の具合が心配になってな。そしたら[あぜ]の[かや]の中でこいつを見つけてしもうたんじゃ」
浪子「まぁ、入っておくれなさい。手拭でも持ってくるけん」
ごろじい「それより、なんぞ、[おもゆ]、みたいなもん作ってくれんかな。こいつえろう腹をすかしとるみたいやで」(F・O)