21 兄弟の家
きれいに洗ってもらって筵【むしろ】の上で、皿のおもゆをぴちゃぴちゃ飲んでいる仔犬。正雄と泰助がそれを熱心に見ている。上がり框に腰をかけて茶を飲んでいるごろじい。
ごろじい「おおかた、仔犬が生まれ過ぎて捨てられたんじゃろう。このご時勢にむだ飯食う犬を一匹飼うだけでも大変なことじゃろうから」
浪子「それでも、こんな小さなもん、かわいそうやなぁ」
母親の顔色をうかがっていた泰助、今とばかりに、
泰助「母ちゃん、この犬、飼【こ】うたらいかん」
ごろじい「そうじゃ、ひとつ、じいからもお願いします。どうじゃろ、二人でちゃんと世話するじゃろう」
浪子「そうやなあ、二人でちゃんとする、いうて約束するんなら母ちゃんは何【なん】も言わんけど」
泰助「やったあ、兄ちゃん、こいつの小屋作ろう」
正雄「そやな、何ぞ、木の箱がええやろ。納屋見てこ」
二人で勝手口から出ていきかける。
ごろじい「時に、この雨じゃが、大犬【おおいぬ】は大丈夫かの」
二人、振り向いて少し顔を見合わせて首をひねって考える。
ごろじい「身の丈六尺の大犬じゃ」
泰助……あ、(浪子の方をチラッと見て)雨なら心配ない」
正雄「あそこは雨宿りにもってこいなんや」
二人は雨の具合を手の平を出して調べてから納屋の方へ駆けていく。明け放した戸から四角【しかく】い暗闇が見える。暗闇の方を睨んで仔犬が声高く啼く。
浪子「大犬てなんのことです?」
ごろじい「いや、なんでもないこって」
浪子「あの子ら、この頃遊んでぎりおって……なんぼ先生がおらんから学校がお休みになっとるいうてもねえ。それに、うちの手伝いもいっこう、してくれんし。じいに迷惑ばっかりかけてしもて」
ごろじい「じいのことなら心配ないて。まだまだ元気じゃからなぁ。昌二の若い頃は、もっと遊び回りよったもんじゃ」
浪子「そうですかぁ」
そこへ正雄が木箱を、泰助が藁【わら】を抱えて戻ってくる。泰助が犬をあやしている間に木箱に藁を敷く正雄。(D・O)