35 兄弟の家
真夜中。並んだふとんでねている二人の目が明いている。じっと柱時計を見ている泰助。振子が左へ行くたびに白く光る。正雄は腕まくらをして真っ直ぐ上を見ている。
正雄「帰りたいやろな」
泰助「え」
と正雄の方へ寝返り。
正雄「ひとりぼっちだ」
泰助「ん……」
正雄「おいてけぼり食ってんだもんな。おれなんか、となりの町でも泣いちゃったもんなぁ」
沈黙。土間で仔犬がくーんと啼く。
正雄「あいつもひとりぼっち」
泰助「僕らがおるやない……せっかく……」
正雄「(さえぎって)泰【たい】も、ひとりぼっちになって見ィ、母ぁちゃーん、てなるわい」
泰助「そかな」
となりの部屋の浪子も目が明いている。
泰助「じゃあ帰してやろう」
正雄「どうやる?」
泰助「飛行機で来たんやから、飛行機や」
正雄「燃えちゃったもんどうすらい」
泰助「町へ行けば飛行場があるもん」
正雄「あほう。日本の飛行機なんかで飛んでいったら、すぐ撃ち落とされるわい」
沈黙。ボーンと一つ、柱時計が鳴る。
正雄「まてよ、ベンは無電を持っとるからやな……うん、いけるやろ。なんとかだまくらかして飛行機をかっぱらやぁ……」
泰助「ほんと?ほんとやな」
と身を乗り出す。
正雄「うん、たいがい、うまいこといく。あとはベン次第……いや、その前に町まで見つからんように行く策を立てんと」
泰助「それなら、まかしといて」
と逆の方へ寝返る。
浪子さん、とっても心配です。(F・O)