41 ごろじいの家

いろりの横で四人が顔をつき合わせている。少し離れて木の彫り物をしているごろじい。しばらくして四人が顔をはなす。

徹「おらぁ、あの甘いお菓子がもらえんならなんでもやるぜ。このところ甘い物にはとんとお目にかかれんからな」

二郎「そんな、まずいよ。悪いことしたら憲兵さんに連れていかれるって、母ちゃん言いよったよ。そしたら二度と帰れんて」

徹「二郎の母ちゃんはいっつもこれや。昔は明神山の青鬼でおんなしこと言いよったんや。……おらぁ、一辺兵隊に泡、食わしてやろうと思うとったんや。いっつも供出でうまいもん食うとんやからな。聞いたか、白飯【しろめし】、一日に六合食うとんやて」

泰助「六合か?」

徹「そや」

二郎「へー……や、やっぱり、まずいよ。それに孝【たか】ちゃんは……」

三人、孝の方を見る。

孝「僕のことならかまわんで。父ちゃん死んだんは、その兵隊さんのせいやないやろ。その兵隊さんやって、うちの父ちゃんみたいにいやいや連れてかれたんや、きっと。……その兵隊さんがここで死んだら、また僕や母ちゃんみたいな哀しい[め]する人ができるんや」

泰助「(膝を打って)さすが孝ちゃんや。話が分かる。孝ちゃんがおらんと、策が立たんけん」

二郎「僕は、しかられるけん、いかんよ。相手は大人やもん」

徹「びくびくするない。犬より、こわなかろう?」

二郎「(かえって[きっ]となって)絶対いかんよ、絶対いかんからね」

と後ろへさがり立ち上がる。(WIPE)