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53 (F・I)ごろじいの家

少し曇ってきているせいで少し暗い板間の片隅に二郎がぺったり座わり込んでいる。徹が駆け込んでくる。

徹「(息をはぁはぁつきながら)みんなは?」

と二郎に聞く。二郎、放心したまま、

二郎「まだたい」

とつぶやく。

徹「なんや、また、腰、抜かしとんのか?」

二郎、はっと我にかえり、

二郎「誰も腰なんか抜かしとらん」

と強がる。土間で、握り飯をこさえているごろじい。

ごろじい「そら、帰ってきたで」

ごろごろと荷車を引いて、三人、到着。

泰助が駆け込んできて、

泰助「徹ちゃん、馬は?」

徹「伊東の向こうの柳の木に継いで来たけ、山から降りたあのおっさんらが見つけるまでにゃぁ、だいぶかかるわ」

泰助「そうか、よし」

と家の中を見渡して、

泰助「あれ、ベンは?ごろじい」

ごろじい「万が一人が来ると行かんけぃ、納屋に居【お】ってもろうとる」

泰助「それがええ。……(二郎の方を見て)あ、二郎ちゃん、分け前や、ほい」

とチョコレートを一枚投げ渡す。受け取ると大事そうにポケットにしまい込む二郎。

孝「休みを入れなんだら、四時間として、……七時には町につけるやろ。あの兵隊さんらも、子供にコケにされたとは言えんやろけど、何とか言うて助っ人を集めるやろ。その前に村を出な」

正雄「そんじゃあごろじい、めんどうな事になるといかんけん、うちと、徹ちゃんと、孝ちゃんと、二郎ちゃんの母ちゃんにうまいこと言うとってくれん。帰りは明日【あした】になるけん」

ごろじい「引き受けた。……この具合じゃあ、夕立ちになるけぃ、これを食うたらすぐお行き。……これは弁当じゃ。五人じゃちっと、いや、六人じゃあ足りくさかろうが……」

と握り飯がのったお盆と握り飯の包みを板間に置く。徹、まっ先に飛びついて、一つ口に入れ、もぐもぐしながら、

徹「上等や、じっちゃん。町はずれのいとこんち通るけん、そんとき、なんか分けてもらうけん」

四人で握り飯を頬張る。

徹「(まだ座っている二郎に)こっち来う」

二郎「おら、帰るけん」

と立ち上がりかける。徹、湯のみにくまれた水をごくんと飲んで、

徹「もう帰れんちなぁ、孝ちゃん。二郎て名前、聞かれてしもたんや。今晩あたりケンペイさんが掴まえにくるでェ」

二郎「ほ、ほんとか、孝ちゃん」

孝「(徹の方をチラッと見て)う、うん。僕らと一緒に居【お】ったほうがええよ」

二郎「それならおらも行くけん、飯おくれ」

と寄ってくる。泰助、ベンの地図を取り出して拡げながら、

泰助「孝ちゃん、孝ちゃん、おれ、学校、ようさぼりよったけんわからんのやけど、これが日本だね」

と指す。うなずく孝。

孝「それで、村はこのへん」

と九州西部を指す。

泰助「じゃぁ、アフリカは?」

孝、見開きを拡げながら、大陸を指す。

泰助「遠いなぁ。そんなに油【あぶら】もつん?」

孝「ここらに舟形がかいてあるやろ。これはな、空母ちゅうてな、浮かぶ飛行場なんよ。ここまで飛べばええんよ」

のぞき込んでいた一同、へーと感心する。いろいろな線がかかれた地図。(D・O)