60 一本道
二人、トラックから十メートルぐらいのところまでくると急にぶらぶら歩き出す。轍【わだち】を泥水が川のように流れている。二人、様子をうかがいながら近づく。エンジンのうなる音。タイヤがすべる音。泥水が飛び散る。
徹「手伝おか、兵隊さん」
とエンジン音に負けずに叫ぶ。
やっと二人に気付いた兵隊、思わず力を抜く。トラックはぬかるみへ逆もどり。ブルッ、ブルッとうなってエンジンが止まる。雨の音だけ残る。
兵隊三「なんじゃて?」
徹「手伝おか」
兵隊四「無理や無理。けがするけぃ、のいときや」
座席の軍曹が顔を出す。
軍曹「おー、そこの二人、すまんが押してくれや」
兵隊四「しかし軍曹どの、小学生じゃあ……」
軍曹「かまわん、かまわん、あと少しじゃ」
徹と泰助、兵隊四に向って大いばりで腕まくりをして後押しに入る。(WIPE)