88 (F・I)兄弟の家
浪子がいろりばたで縫い物をしている。
開け放した勝手口から孝の母が入ってくる。上がり框【かまち】に腰かけながら
孝の母「やっとおさまったようやねえ」
浪子「ええ、今日のは威嚇やなかったみたいやねえ。……孝【たか】ちゃんもうちの子らと一緒に行ったん?」
孝の母「うん、ごろじいがわざわざ断わりにきて、今晩は虫取りに連れていく言うて」
浪子「すまんねえ、じいが遊びにぎりさそうてしもて、手が足らんようになるやろ」
孝の母「そんなこたぁないけ。それより、泰【たい】ちゃんらが何だかんだと孝を引っぱり出してくれるけん、このごろは見違えるくらい元気になって……」
浪子「孝ちゃん、賢いから、父ちゃんのこともちゃんと分っとるけん。もう大丈夫よ」
孝の母「強うなってくれるとええんやけど」