120 中尉の部屋

ベッドの上に中尉と整備兵、並んで腰かけている。

整備兵「少しでもおやすみにならんと……」

中尉「学生のときから徹夜には慣れとんだ。徹夜したほうがかえって頭が冴えるのよ。それで、その片腕、打ち抜かれた飛曹はどうなった」

整備兵「はあ、それから出血がひどォなりましてな。人間ちゅうもんは血ぃ抜かれると眠うなるんじゃそうですな。それで右手だけで操縦桿を握っとんやそうですが、寝てしもたら終りじゃけ、いうんでバッと手を離してほっぺたをしばき上げよったそうですらい。下から見よるとそんでもってフラフラしとんで気が気じゃなかったですらい」

中尉「ほう……学生じぶん、講義中に眠とうなって頬をたたいたことはあったがなあ。そうか、……血がへると眠とうなるんか」

と幾分明るくなった外を見つめる。

118 並べられた飛行機

倉庫のあたりから、バケツ、板切れ、藁【わら】などいろんなものを孝、二郎、正雄、俊夫が運んできて翼の上に上がった徹に渡す。徹、手当りしだいに座席にぶち込む。徹、翼から飛びおりて、正雄に

徹「これで飛ぶのにえろう手間がかかるで……あれ泰ちゃんは?」

正雄「なんか飛行機に墜とされん工夫をするいうて倉庫におるんや」

116 飛行場――倉庫

九番機を見上げている一同。

泰助「これやな、孝【たか】ちゃん」

孝「(胴体の下のタンクをたたいて)これが油やろ。間違いない」

正雄「よっしゃ、飛行機のことはベンにまかしとこ。わしらはなあ……」

とみんなを集めて指示をする。

115 土手

川上めざして走るトラック。あとから伍長の乗った軍馬が駆ける。助手席の軍曹が運転している兵隊四と大声で話している。

軍曹「どれぐらい行けば橋があるんか?」

兵隊四「あと十キロぐらいであります」

軍曹「壊れてもかまんからぶっ飛ばせ!」

タイヤがくぼみを通って兵隊達、座席で大きくバウンドする。