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62 一本道、やぶのところ

かなり雨足が弱まっている。泰助と徹のあとを兵隊二人と傘をさした軍曹が続く。やぶの中の孝に合図する泰助。兵隊四が急に喋り出すので泰助、どきん。

兵隊四「ついとらんなぁ」

兵隊三「いや、全く。しかし、中尉殿には、この雨は天の恵みかもしれんぞ。これだけ降れば今日は飛べまい。……一日、命が延びたようなもんだ。

兵隊四「そうそう、機銃なしでよ、重たい油を腹いっぱいかかえての偵察なんざぁ、おらぁごめんだね。いぶり殺しに合うて」

泰助と徹、目を光らせて、顔を見合わせる。

兵隊三「全くなぁ。まだ特攻でドカンといくほうがマシだな。

軍曹「しかたなかろう。沖縄のあたりからの連絡がとんと入ってこんのだからなぁ。なるべく、遠く、広くの敵状を仕入れんことには動きがとれまい。今のままじゃ、闇夜の烏だ」

兵隊四「軍曹どの、それはちょっと違いませんか?……そういうときは……」

軍曹「いったいどう言うんだ」

兵隊四「そういうたとえは……そう、灯台もと暗し」

兵隊三「ばか、それこそ全くちがうぞ。それより、軍曹どの、あの偵察機は浮かぶのでありますか?増槽を二つつけるとか言うとりましたが、重すぎやしませんか?」

軍曹「あれがぎりぎりらしいがな。滑走路の端から端まで[め]一杯に使うそうだ」

兵隊四「それにしてもよりによって、あの[気]の小さい中尉が貧困くじを引くとは、因果なもんですねえ」

軍曹「それが、くじとかそんなもんじゃないそうだぞ。なんでも、えらい上の方からの指名らしいぞ。へたにええ学校【ガッコ】なんかでるもんじゃないて」

ここで兵隊四、大きくくしゃみ。

兵隊四「坊主ら、寒うないか?傘もささんで」

徹「(振り返って)田植えのときなんかもっとびしょで今より寒いけ。兵隊さんも、このくらいの雨で風邪ひきよったら戦争にならんのやろ?」

兵隊四、苦虫を噛みつぶしたような顔になる。さらに弱くなった雨。(F・O)