99 (F・I)土手の上

子供達とベン、座り込んでしまっている。その回りを元気に走り回る仔犬。泰助、濁流に石を投げ込んでいる。

二郎「アメリカも考えないやっちゃ。せっかく兵隊さん、助けちゃろいうのに」

徹「今日に限って、爆弾、落としていくんやからなあ」

ベンは子供達の様子を悲しそうに見ている。流れの音、しばらく。

遠くから汽笛の音、とても小さく。泰助、それに気付く。

泰助「良ちゃん、汽車はどの辺通っとるん?」

良介「一里ほど上やけど」

徹「あほう、なんでそれを早う言わん。よっしゃ、行くで」

と立ち上がりかける。

良介「そんでも鉄橋いうてもレールが渡っとるだけやよ。他に何もないけん、汽車で通っても恐しいんや」

二郎「そらいかん。渡りよって汽車が来たら、落ちるか轢かれるかしかないやない」

正雄「ここに居【お】っても渡れんのや、とにかく行ってみよ」

と立ち上がる。

二郎「えー、一里も歩くん」

とこぼす。徹、仔犬を抱き上げて、

徹「そういうことを言う奴には、ほら(と仔犬を二郎に押しつけて)こうしちゃる」

二郎「(少したじろいだが)ふん、もうどうもないよ」

と胸を張る。

泰助「へー、二郎【じろ】ちゃん、やったなあ」

二郎、調子にのって徹から仔犬を受け取り歩き出す。眠そうな俊夫を見てベンがおんぶをしてやる。