107 土手を登る道(壊れた橋のところ)
こちらは勢いよく登っていくトラック。土手を登りきったところで急ブレーキ。荷台の中の二人、思い切りひっくり返る。ぽかんと口を開けている座席の二人。
106 線路
キキィーと派手な音をたてて貨物列車が急ブレーキをかける。歩くぐらいのスピードに落ちた車輌に子供達、草むらから飛び出て、いろんな方法でしがみつく。ベンは片手で俊夫を抱え、逆の手一本で棒を握りしめる。
機関車の窓から機関士と車夫が顔を出している。
機関士「何【なん】やろう?」
車夫「焼夷弾の燃えかすと違いますか」
機関士「びっくりさせやがる。線路が燃えよんかと思うたわ」
二人、顔を引っ込める。止まりかけていた機関車がゆっくり加速し始める。そのままゆっくり鉄橋にかかる。
二郎、震えてくる。隣にいた徹、大声で、
徹「下見るな!二郎、こっち見ぃ」
ベンの手に抱えられた俊夫も、胸の箱の仔犬も縮みあがっている。鉄橋の終わりの方になると、
孝「鉄橋がすんだらすぐ飛び降りぃ!坂になると速うなるでえ!」
言い終ると同時にまず孝が飛び降りる。次々に飛び降りる子供達。最後になった二郎、覚悟を決めて飛ぶ。下り坂を勢いよく加速していく貨物列車。
103 倉庫
尾翼にOB-109と掻かれている機体にゆっくり近付いていく中尉。なるべく音をたてないように翼に登り、風防をそーっと開け、上半身を突っ込む。そこで懐中電燈をつけ、計器の下の配線の一つを鋏で切ろうとする。その時、倉庫の奥で戸の開く音。中尉、慌てて鋏をポケットにしまう。懐中電燈の丸い光があちこち照らしながら近付いてきて、中尉をとらえる。
整備兵「こりゃ、中尉殿でしたか。何【なん】ぞご用で?」
中尉「(しどろもどろして)昼間、……お守りを落としたようでな。……縁起が悪いから、探しとこ思てな」
整備兵「そらいかんですなあ、私が探します」
中尉「い、いや、今見つけたとこだ」
整備兵「そらよかった。しっかり持ってがんばって来て下さいよ。万事、整備しとりますけん、絶対帰って来て下さいよ」
中尉、翼から降りて、
中尉「ああ。……ここで寝泊りしとんのか?」
整備兵「明日の朝が早いから、裏で寝とります」
中尉「そらご苦労やなあ。……ちっとぼくの部屋へこんか。話がしたいんでな」
整備兵「はあ、かまわんですが、ちょっとばかり待っとって下さい。すぐ来ますけん」
と奥へ戻っていく。中尉、倉庫の外へ出るとポケットから鋏を取り出し、握りしめて――草むらの中へ投げ込む。