109 兄弟の家

時計が三つ打つ。小さな明かりでまた縫い物をしている浪子。ふっと顔を上げて仏壇を見ると、針を置いて立ち上がる。仏壇の中でキラキラ光っている銀紙の包みをとり上げて、なんだろうと見ています。

時計が三つ打つ。小さな明かりでまた縫い物をしている浪子。ふっと顔を上げて仏壇を見ると、針を置いて立ち上がる。仏壇の中でキラキラ光っている銀紙の包みをとり上げて、なんだろうと見ています。

106 線路

キキィーと派手な音をたてて貨物列車が急ブレーキをかける。歩くぐらいのスピードに落ちた車輌に子供達、草むらから飛び出て、いろんな方法でしがみつく。ベンは片手で俊夫を抱え、逆の手一本で棒を握りしめる。

機関車の窓から機関士と車夫が顔を出している。

機関士「何【なん】やろう?」

車夫「焼夷弾の燃えかすと違いますか」

機関士「びっくりさせやがる。線路が燃えよんかと思うたわ」

二人、顔を引っ込める。止まりかけていた機関車がゆっくり加速し始める。そのままゆっくり鉄橋にかかる。

二郎、震えてくる。隣にいた徹、大声で、

徹「下見るな!二郎、こっち見ぃ」

ベンの手に抱えられた俊夫も、胸の箱の仔犬も縮みあがっている。鉄橋の終わりの方になると、

孝「鉄橋がすんだらすぐ飛び降りぃ!坂になると速うなるでえ!」

言い終ると同時にまず孝が飛び降りる。次々に飛び降りる子供達。最後になった二郎、覚悟を決めて飛ぶ。下り坂を勢いよく加速していく貨物列車。

105 町はずれ

乗り捨ててあるトラック。近くの井戸で兵隊達が水を飲んだり顔を洗ったりしている。兵隊二、トラックの方へ小走りで向っていきながら

兵隊二「早よせい。ぶっ飛ばすぞ」

と運転席に飛び乗って手早くエンジンをかける。バックして道に入って三人を乗せると激しくタイヤを空回りさせて発進する。

104 線路

孝がレールに耳をあてている。

孝「早よう、急げ、急げ」

俊夫を除いたみんなで燃えそうなものを集めている。ベンがライターと紙きれを使って火をつける。

孝「よっしゃ、みんなこっちや」

と鉄橋とは逆の方へ駆け出す。一同、百メートルほど走るとレールの脇の草むらに身を隠す。

103 倉庫

尾翼にOB-109と掻かれている機体にゆっくり近付いていく中尉。なるべく音をたてないように翼に登り、風防をそーっと開け、上半身を突っ込む。そこで懐中電燈をつけ、計器の下の配線の一つを鋏で切ろうとする。その時、倉庫の奥で戸の開く音。中尉、慌てて鋏をポケットにしまう。懐中電燈の丸い光があちこち照らしながら近付いてきて、中尉をとらえる。

整備兵「こりゃ、中尉殿でしたか。何【なん】ぞご用で?」

中尉「(しどろもどろして)昼間、……お守りを落としたようでな。……縁起が悪いから、探しとこ思てな」

整備兵「そらいかんですなあ、私が探します」

中尉「い、いや、今見つけたとこだ」

整備兵「そらよかった。しっかり持ってがんばって来て下さいよ。万事、整備しとりますけん、絶対帰って来て下さいよ」

中尉、翼から降りて、

中尉「ああ。……ここで寝泊りしとんのか?」

整備兵「明日の朝が早いから、裏で寝とります」

中尉「そらご苦労やなあ。……ちっとぼくの部屋へこんか。話がしたいんでな」

整備兵「はあ、かまわんですが、ちょっとばかり待っとって下さい。すぐ来ますけん」

と奥へ戻っていく。中尉、倉庫の外へ出るとポケットから鋏を取り出し、握りしめて――草むらの中へ投げ込む。