110 飛行場――門の前の小屋のかげ

正雄とベン、そして良介と俊夫が休んでいる。二郎の膝で仔犬が寝ている。そこへ徹と泰助と孝が身を低くして戻ってくる。

泰助「だめや、兄ちゃん、見張りが回りを取り囲んどる」

良介「おかしいなあ、普段は誰もおらんのに」

孝「何【なん】ぞ気付いたんかも知れん。こまったなあ」

正雄「まあ、あせっても仕様がないけ。これでも食うて様子を見よや……あとちょうど一枚ずつや、ほい、ほい……」

と一枚ずつチョコレートを配る。いろいろな食べ方をされるチョコレート。食べながらも子供達、飛行場の方から目を離さない。

子供達、さっと小屋のかげに入る。門のところに人影二つ。

109 兄弟の家

時計が三つ打つ。小さな明かりでまた縫い物をしている浪子。ふっと顔を上げて仏壇を見ると、針を置いて立ち上がる。仏壇の中でキラキラ光っている銀紙の包みをとり上げて、なんだろうと見ています。

時計が三つ打つ。小さな明かりでまた縫い物をしている浪子。ふっと顔を上げて仏壇を見ると、針を置いて立ち上がる。仏壇の中でキラキラ光っている銀紙の包みをとり上げて、なんだろうと見ています。

106 線路

キキィーと派手な音をたてて貨物列車が急ブレーキをかける。歩くぐらいのスピードに落ちた車輌に子供達、草むらから飛び出て、いろんな方法でしがみつく。ベンは片手で俊夫を抱え、逆の手一本で棒を握りしめる。

機関車の窓から機関士と車夫が顔を出している。

機関士「何【なん】やろう?」

車夫「焼夷弾の燃えかすと違いますか」

機関士「びっくりさせやがる。線路が燃えよんかと思うたわ」

二人、顔を引っ込める。止まりかけていた機関車がゆっくり加速し始める。そのままゆっくり鉄橋にかかる。

二郎、震えてくる。隣にいた徹、大声で、

徹「下見るな!二郎、こっち見ぃ」

ベンの手に抱えられた俊夫も、胸の箱の仔犬も縮みあがっている。鉄橋の終わりの方になると、

孝「鉄橋がすんだらすぐ飛び降りぃ!坂になると速うなるでえ!」

言い終ると同時にまず孝が飛び降りる。次々に飛び降りる子供達。最後になった二郎、覚悟を決めて飛ぶ。下り坂を勢いよく加速していく貨物列車。

105 町はずれ

乗り捨ててあるトラック。近くの井戸で兵隊達が水を飲んだり顔を洗ったりしている。兵隊二、トラックの方へ小走りで向っていきながら

兵隊二「早よせい。ぶっ飛ばすぞ」

と運転席に飛び乗って手早くエンジンをかける。バックして道に入って三人を乗せると激しくタイヤを空回りさせて発進する。