脚本3・9

11 (F・I)ごろじいの家

いろりを囲んでごろじいと二人が座っている。ごろじいは火ばしで火をつついて魚を焼いている。その干し魚を食べている正雄と泰助。 ごろじい「それで、その穴は誰にも見つからんかい」 泰助「うん。兵隊さんが動かなんだら……あそこを知っとんのは、徹らぐら…

10 (F・I)森の中

日はとっくに暮れている。落下傘の布や枝を燃やしてその傍らに二人で膝を抱えて座っている。兵隊は少し離れた木にもたれて座って焚き火の炎をじっと見つめている。 正雄「どうすらい。もう帰らんとまた夕飯【めし】ぬきや」 泰助「ほっとくわけにはいかんよ…

9 (F・I)森の中

とぼとぼ引き返す二人。 泰助「死んじゃったかなぁ」 正雄「落ちる前に逃げんとなぁ」 泰助「日本の飛行機とちがうね」 正雄「おぉ、ありゃ、おおかたアメリカのぉや。町で空襲警報なったとき見たんとおんなじや。」 しばらく黙ってうつむいて歩く二人。泰助…

8 向い側の山の斜面

ときどき小爆発を起して燃える機体。 破片が飛び散り、原型をとどめない。 (F・O)

7 山の頂

息も絶えだえに登ってくる二人。夕日が顔に当たり汗が赤く光っている。二人とも一言も言わずに一点を見つめて、はぁはぁやっている。

6 山の斜面

飛ぶように駆け下りる二人。

5 少し太い山道

二人とも息がつきて一休み。膝に手をあててはあはあやっている。 山の向うに立ち昇る黒い煙。また走り出す二人。

4 小川

先に来た正雄、ひらりと飛び越える。泰助も飛ぶが、岸まで届かず足が流れにつかる。

3 幹木の茂み

枝をかき分け走る二人。 野うさぎが驚いて走り出る。

2 竹林

先を行く泰助が急に立ち止まり、耳を澄す。正雄が泰助に追突しかけたときに、ドーンと墜落音とともに地響き。あわてて駆け出す二人。

1 昭和二十年七月 九州

森の中 杉が生い茂る山の斜面を正雄とその弟、泰助が前後して歩いていく。手に虫取り網、腰に虫籠、背中に布の鞄。夕暮れが近い。正雄の踏んだものをその通りに踏みつけていく泰助。山[ばと]がぽーぽー鳴いている。泰助、立ち止って水筒の水を飲み干す。走…