脚本3・9

42 山道(馬がかよえるぐらい太い道)

かんかん照り。三人が、少し遅れて二郎が、首に手拭いのようなちいさい布を巻きつけて歩いていく。 徹「なぁ、泰ちゃん。ほんとにあの板菓子、まだあるん?」 泰助「そらもう、箱に一杯ぐらいあるで」 徹「そうか、よしよし」 泰助「でも、もろうたら、三、…

40 四つ辻

泰助が歩いてくる。角【かど】で走ってきた二郎とはち合わせ。二郎は泰助の後ろに隠れる。(犬の啼き声、近づく) 二郎「(喘【あえ】ぎながら)泰ちゃん……助けて」 大きな真っ黒な犬が走ってきたのを泰助、なんなくあやす。 泰助「どうして逃げるの?」 二…

39 孝【たかし】の家

寝ころがって本を読んでいる孝。読んでいるのは、林不忘「丹下左膳」机の上には四、五十冊は本が積んである。そこへ姿をみせる泰助。 泰助「孝【たか】ちゃん、ちょっといいものあげるよ」 (WIPE)

38 畑

ばあさんが大根を抜いている。それを集めて歩く徹。そこへ泰助が、平均台を渡るように両手を広げて、あぜを通ってくる。 泰助「徹ちゃーん。ちょっと」 徹、かごを置くと、巧みに畝【うね】を飛び超えてくる。 徹「なんだい、泰ちゃん」 泰助「いい[もん]…

37 徹【てつ】の家

土間の半分を占めている厩【うまや】で徹の母親が馬にまぐさをやっている。そこへ勝手口から泰助が顔をのぞかす。 泰助「おばさん、おはよう。徹ちゃんいる?」 徹の母「ああ、おはよう。徹ならばあちゃんと畑だよ」 泰助「ありがとう」

36 (F・I)兄弟の家、玄関

勢いよく飛び出してくる二人。 道まで出て、 泰助「昼過ぎまでに、話つける」 正雄「急ぐこたぁないぞ。大人に聞かれんな」 泰助「大丈夫、大丈夫」 と言って駆けていく。少しの間見送った正雄が逆向きに歩き出そうとすると、家の中から、 浪子「正【まさ】…

35 兄弟の家

真夜中。並んだふとんでねている二人の目が明いている。じっと柱時計を見ている泰助。振子が左へ行くたびに白く光る。正雄は腕まくらをして真っ直ぐ上を見ている。 正雄「帰りたいやろな」 泰助「え」 と正雄の方へ寝返り。 正雄「ひとりぼっちだ」 泰助「ん…

34 木の根元

手製の十字架が立っている。その下に置かれた認識票。泰助と正雄が正座して手を合わせている。ベン、少し離れて座り、二人をじっと見つめている。

33 墜落現場

三人でリュックをかかえて遠出をしてきている。あたり一面黒こげ。ベン、操縦席らしきものを見つけ、焼け焦げた布をさぐって認識票を見つける。ぎゅっと握りしめる大きな手。正雄と泰助、少し離れて見ている。

32 (F・I)兄弟の家

朝ごはんの前。一番のお茶を仏壇に供えて浪子、手をあわせます。浪子が立つと今度は泰助と正雄、並んで座って手をあわせる。

31 谷川

泰助が駆け戻るとベンがいない。川の中ほどに浮かび上がるベンの頭。流された竿を拾って泳ぎ始める。急いで服を脱いで水に入る二人。 岸に残った草鞋と靴二足。(F・O)

30 茂み

泰助がからだを揺すっていると、ざぶんという音。

29 (D・I)谷川

泰助と正雄が釣りをしている。すっかり元気になったベンが草鞋【わらじ】をはいて見ている。泰助、竿を置いて立ち上がると、 泰助「しょん[べん]」 と一言、言って、茂みに入っていく。 ベン、不思議そうに泰助の後ろ姿を見ている。 みんみん蝉が一匹だけ…

28 兄弟の家

夜。正雄と泰助が仔犬とじゃれている。すっかり元気になった仔犬。きゃんきゃん走り回っている。洗い物をしている浪子、 浪子「ちょっとは本でも読みなさい。孝【たか】ちゃんみたいに」 二人、全然聞いていません。キャンキャン走り回る仔犬。(D・O)

27 畑

めずらしく兄弟が働いている。雑草を二人で抜いていく。浪子は鍬【くわ】を使っている。 ごろじいが桶を運んでやってくる。 正雄「ごろじいねぇ、アメリカ語知らんの」 ごろじい「さぁてのぉ、昔はちぃとはわかりよったんじゃが……」 正雄「三、九、て知らん…

26 ほら穴

こちらもベン一人。機械(実は無線機です)の調子を見ている。ギギーシャーピピーガガガ。ため息をつくベン。

25 兄弟の家

今日は誰もいない、と思えば土間の隅でくんくん啼き声。仔犬が木箱から乗り出してあたりを見渡している。(WIPE)

24 ほら穴

こちら、切り株を囲んでのお昼ごはんが終ったところ。泰助がベンの本を読み始める。(この本、実はコミックです。) 泰助「なぁ兄ちゃん、この主役の強い奴、ベンによう似とるなぁ」 正雄、泰助の指さす絵をのぞき込む。その向うに上半身はだかのベン。

23 兄弟の家

三人で朝ごはん。浪子が立ったすきに、二人してかばんに食べ物を詰め込む。泰助、お椀に指を突っ込んで、[あちち]です。浪子が急須を持って戻ってきて、 浪子「もうちょっとゆっくり食べなさい。からだに悪いわよ」 とお盆でお茶を二人に差し出す。二人、…

22 (D・I)ほら穴(外は良い天気)

こちらもベッドの様に藁を敷いている正雄。泰助は湿っている藁を外へ運び出している。ベンは桶にくまれた水と手拭いでからだをふいている。筋骨隆々の上半身。 正雄、藁を敷き終えると、 正雄「ベン……ベン」 と呼んでおいて、ベッドの上をポンポンとたたく。…

21 兄弟の家

きれいに洗ってもらって筵【むしろ】の上で、皿のおもゆをぴちゃぴちゃ飲んでいる仔犬。正雄と泰助がそれを熱心に見ている。上がり框に腰をかけて茶を飲んでいるごろじい。 ごろじい「おおかた、仔犬が生まれ過ぎて捨てられたんじゃろう。このご時勢にむだ飯…

20 (F・I)ほら穴の中

ベンがライターの光で写真を見ている。写真に向って少し微笑むが、すぐに哀しくため息をつく。目尻に光る涙。写真に写ったベンとその家族。ベン、チョコレートをかじると火を消す。

19 (F・I)兄弟の家

外は強い雨。正雄と泰助が土間に筵【むしろ】を敷いて、その上に座り込んで草鞋【わらじ】を編んでいる。そこへ勝手仕事をしている母親が漬け物樽を抱えてやってくる。 浪子「どうしたん。そんなに大【おお】きに編んで」 兄弟、ちらっと目で合図。 泰助「こ…

18 ほら穴の中

正雄がチョコレートを食べている。そこへ泰助が戻ってくる。 泰助「あ、兄ちゃんだけ、狡【こす】いぞ」 正雄「心配せんでも、泰の分もあるわい。……ベンな、ものすごたくさん持っとるんや。この箱の中な、何やへんな機械と本でな、その隙間にこれがぎっしり…

17 森の中、昨日の焚き火のあと

泰助、木の枝や、草を抱えてきて、焚き火の跡を覆っていく。だいたい覆い尽したとき、はっと人の気配に気付く。少し登ったところに兵隊が一人立っている。降りてきながら、 兵隊「何しとる?、坊主」 泰助「(兵隊が近づくのを待って)虫取りの用意や、おじ…

16 森のはずれ

泰助、下の様子をじっと見ていたが、ぱっと立ち上がると全速で駆け出す。

15 山道(五十メートルほど下を通っている)

五人ばかりの兵隊と村の人二人がいる。兵隊達は銃剣を持っている。村の人が兵隊に何か説明している。

14 森のはずれ

泰助がぴょこんぴょこん跳ねながらやってくる。少し見晴らしのいい所に来たとたん身を伏せて、下をのぞく。

13 ほら穴の中

直径三メートルほどで子供なら五人は十分入れる。光とりの縦穴があり、結構明るい。わらが敷いてあり、その上に兵隊が寝ている。 正雄「ここ、作っとってよかったなぁ。しんどい[め]、した甲斐があったな」 と言いながら鞄から蒸した芋と麦混じりの握り飯…

12 (F・I)ほら穴の入り口

木の枝を組んでその上に草をかけてカモフラージュしてある戸がごそっと動いて泰助が顔を出す。きょろきょろあたりを見回す。そこへ正雄が桶に水を入れて、ちゃぷちゃぷしながら小走りに持ってくる。 泰助「誰もおらんかった?」 正雄「ほい。(と桶を渡して…